モロッコへはヨーロッパ旅行の途中に急遽寄り道を決めた。3歳ごろに1度来たことがあって、カタツムリがおいしかったこと、道で大金を拾ったこと、通りすがりのモロッコ人にキッスされまくったことを覚えている。どれも悪くない思い出だ。せっかく近くへ来ているのに素通りも悪いと思ったのである。
タンジェの街は船がタンジェ行きだったから来たまでであって、あまり期待していなかったのだ。滞在も2日弱。だから「寝れればいいや」という気持ちで久々に適当なホステルを予約した。でも……タンジェの街も、『Dar Syra』も最高だったなぁ。もっと長く居たかった。
Dar Syraへの道のりは坂と細道が入り組んだ迷路で、辿り着くのはすごく大変だった。モロッコは地形のせいか電波の悪いところが多い。さんざん迷って人に聞きまくったあげく、最終的に「最近、近所に移転しました」ってオチだったときはみじめすぎて死にたくなった。
でも受付で対応してくれたのが「のんき」と顔に書いてありそうな西洋人の兄ちゃんで、悪びれもせず鼻歌うたいながら「なんか日本語教えてよ」などと言う。どこかヒッピーの匂いがする彼からは、「細かいことはどうでもよくなる感染式のオーラ」が発せられていたんだよなぁ。
モロッコってのはコソ泥だらけの街ときいていたが、Dar Syraでは安宿に珍しいスナック&ドリンクバーがあった。しかもカウンター横とかではなくフリースペースに雑然と。お金は置いといてねシステムで、コインを回収すらしていない。少なくともここにコソ泥はいないようだ。
4階建てにもかかわらず、収容人数はおそらくMAX10人ほど。普通のドミならここに50人はブチ込んでるくらいの広さである。とにかくフリースペースに力を入れすぎなドミなのだ。
どこもかしこもフリースペース……
素敵なキッチンもある。
屋上で過ごす時間は最高すぎた。
夜はマットが教えてくれた近くの海鮮のお店へ。あっ、マットってのは例の受付の兄ちゃんな!本場のタジン鍋がこんなにクセのないものだとは知らなかった。
モロッコの飲食店では120%セットで出てくる硬いパンと、80%出てくるオリーブ。モロッコ人はこのオリーブ漬けが大好物らしく専門店もたくさんある。わたしはあまり得意じゃない。
この店の人とは仲良くなって結局次の日も来た。ハッサンという陽気なモロッコ人がやってる店で、店名にも『ハッサン』と付いている。興味のある人は探してみてネ。
入り組んだタンジェの街も慣れれば簡単で、2日目には「いいとこだな」と感じる余裕ができた。
ビックリするくらい人が話しかけてくることにも2日目には慣れた。アジア人が珍しいのである。単純に「よっ、姉ちゃん!」と言いたいだけの人が7割、何かを売ろうとしている人が3割。しかしその3割も「騙してでも売ろう」とかいうんではなく、「よっ、姉ちゃん!何か買ってく?いらないか!OK楽しんでくれよな!」ってなもんである。想像してたモロッコとは全然違う。
しかし子供までが話しかけてくるのには本当に参った。3歳くらいの子が飛び出してきたかと思えばわたしのオッパイをガッシと掴み、「うちの店でなんか買ってけ」と指差すのである。中東の子供はかわいいから断る自分がすごく悪い奴に思えてくる。日本にもこの国くらいのアグレッシブさがあれば引きこもり問題はなくなるんじゃないだろうか。
Dar Syraはタンジェの中心地にほど近いのでここを拠点にすれば……というほどタンジェは広くない。観光には2〜3日あれば十分だ。けど、もうしばらく居たい気がする街である。
近所のノラネコ公園には朝昼晩立ち寄ってしまった。
Dar Syraは1泊1400円。現地の物価からすると安くはないのかもしれないが、ヨーロッパを旅してきた日本人にとっては魅力的な価格だ。朝食はモロッコ式のパンやお菓子、果物が食べ放題。タオルやドライヤー完備でバスタブまである。ドミだってことを忘れるドミ。
致命的なマイナスポイントはWi-Fiが弱いこと。スマホアプリくらいなら途切れながらも使えるが、パソコンでソフトを使った作業はかなり厳しい。仕事しながら旅するわたしにはかなり痛かった。でも、それでもまた来たいと思えるところであった。
いろいろ世話してくれたマットはオーストラリア人で、どうやら季節労働でここへ来ているらしい。数ヶ月後には別の国へ行くとのこと。そういう生き方もあるんだなぁ。またここへ来てもマットはいないのだと思うと少し寂しい。
チェックアウトの日、マットに日本語で「ジャアネ」と言われた。あのなぁマット!それは日本語として間違ってはいないのだけど、そこには“もう会えない”っぽいニュアンスが含まれているんだ。それだと悲しくなるから「またね」にしておいたほうがいいぞ。……と、伝えたかったが英語力が足りず断念した。
至れり尽くせりのDar Syraへ、タンジェに行ったらぜひ泊まってみてね!(詳細は各自ググる等してください)