タージマハルと食中毒

『谷口六三商店』というドラマをリアルタイムで視聴した人はほとんど昭和生まれだろう。ドラマ嫌いのわたしがあれほど熱中した作品を他にあげるとすれば、『古畑任三郎』と『未成年』と『世紀末の詩』と『HR』と『新撰組!』……ってけっこうあるなァ。そしてひどく偏っているなァ。

『谷口六三商店』は六三(泉谷しげる)の息子がインド人の嫁さんをもらったことから巻き起こる、谷口一家のドタバタを描いた物語だ。物語後半で夫婦に子供が生まれ、嫁のサビィさん(鷲尾いさ子)は「マハル」と名付けるのである。

それがきっかけで、わたしは「いつかタージマハルに行ってみたい」と思うようになった。

インド初日はデリーで4種類のカレープレートを食べた。これで60ルピー(93円)。ちょっと味が薄かったけどおいしい!

“インドにはカレーしかない”という件については覚悟していたつもりだ。2週間の滞在で30回ほどはカレーを食べることになるのだろうか?こうなったら『インドで食べた全カレーまとめ』という記事を書くつもりで臨んだのである。

翌日は朝からアグラへ移動。憧れのタージマハルを有する街である。嬉しくなって屋上からマハルが見えるホテルを予約したのだ。ヒョー!見える見える!

マハルから見える朝焼けはスゴイらしい。感動の瞬間は明日へとっておいて、初日は近くのお城で楽しく自撮りなどした。余談だが今回のインド旅行で5都市を巡ってみた結果、アグラのインド人が一番根性ヒン曲がっていたように思う。「なるほど、黙ったってナンボでも旅行客が来るんですね」って感じ!(画像に写っているのはただの観光客です)

マハルが見えるホテルでマハルを眺めながらこの旅2食目のカレーをいただく。チキンマサラカレーは日本のインドカレー屋で食べるカレーに似ていて親しみやすい。

夜は疲れたので外出せずにいるとウトウトしてきた。

 

『インドで食べた全カレーまとめ』がこの2つで終了しようとは、夢にも思っていなかった。

その夜我が身を襲った吐き気と腹痛と高熱の程度について、わたしの文章力で書き表すことは不可能だ。昼間のカレーに完全に”当たっちゃった”わたしは、一晩中ゲロを吐きちらかすハメになったのである。(同じホテルで同日に食中毒者が複数登場したので間違いないと思われる)

吐き気もさることながら、このような高熱はひょとして人生で初めての体験かもしれない。風邪のときに感じる「節々の痛み」×100といった具合で、自分の髪の毛がホホに当たるだけでギャッとするほど痛いのだ。時計が1周したころようやく吐き気はおさまったものの、とても歩ける状況ではない。あのときたまたま水を多めに買い込んでいたので難を逃れたが、そうでなければわたしは危険な水道水を飲んでいただろう。それほど身動き一つとれぬ緊急事態であった。

1日寝込んでも気分は全く優れなかったが次なる地へ移動せねばならぬ。ヨロヨロと地を這うように、憧れのタージマハルへかろうじて参拝を果たしたものだ。

マハルは雄大だった気がする。

隣を流れるのが、かの『ヤムナ川』です。

わたしの体調が回復したのは、じつに9日後のこと。インド滞在の半分以上をわたしは寝て過ごすハメになったのである。

 

体調不良のさなか飯も食わずに毎日ウンウンとうなりながら、「もう一生治らない気がする」と本気で思った。そこで頭をよぎったのは、不謹慎だけれど『安楽死』についてだ。「こんなに苦しい思いをしながら生きるくらいなら死んだほうがマシ」と、眠れぬベッドで天井を見つめ考えた。「こんなに苦しい思いをしながら生かされている人がいるのなら、安楽死を認めるべきだ」と。

…と同時に、「万に一つも元気になる日がきたならば、1日1日を感謝して生きよう」と決めた。

 

…そんなワケで、今とっても幸せです!みんな、食中毒には注意しようマジで!